はじめに
納税者の見解と原処分庁(税務署や国税局)の見解が異なる場合に、原処分庁が、更正処分、決定処分、更正の請求を認めない通知処分などをすることがあります。納税者が、このような処分に対して不服がある場合、国税不服審判所に対する審査請求を行うか、または、原処分庁に対する再調査の請求を行うか、選択できます。一部の例外を除いて、いきなり裁判所に対して訴訟を提起することはできません。
国税不服審判所は、公正な第三者的機関として設置された国税庁の特別の機関で、私(平松亜矢子)も、4年間、弁護士から任期付公務員として大阪国税不服審判所で勤務していましたが、国税職員のみならず、税理士、公認会計士、弁護士、裁判官などの多様な背景を有する審判官が合議によって議決・裁決を行っています。
これに対し、再調査の請求は、原処分庁に対する不服申し立て手続きですので、異なる判断となる可能性は低く、再調査の請求に対する不服がある場合は、さらに国税不服審判所での審理を経る必要がありますので、直接国税不服審判所に対する審査請求を実施したほうがよいのではと考える方も多いかもしれません。
事案にもよりますが、再調査の請求は、原処分庁の別の担当者が、改めて精査する過程を経ることにより、見直される可能性は皆無ではありませんし、標準処理期間が3か月とされており、待てない期間ではなく、むしろ、その後の国税不服審判所に対する審査請求の準備期間として有益ですし、再調査の決定により原処分の理由がより詳細にわかり、その後の方針の検討に資することなどから、再調査の請求を経ることを検討することをお勧めします。
不服申し立てに弁護士を依頼したほうがよいか
不服申し立て段階は、面談などを通じて、口頭で主張や証拠が整理されうる手続ですので、納税者本人のみや、代理人は税理士のみで対応することも実際上は多く、弁護士には訴訟になってから依頼するパターンが多いと思います。しかしながら、弁護士は、依頼者の主張を法的に組み立て、その主張を支える証拠を収集して提出し、相手方の主張に対する反論を行うということについての専門家ですので、より早い段階で、争うべきポイントを法律に照らして構成し、相手方の主張の不合理な点を突き、新たな証拠を提出する活動に長けています。税理士と弁護士が協働することが、早期の適切な権利救済の実現に資するといえましょう。
裁決事例について
国税不服審判所のホームページには、公表裁決事例が掲載されていますが、令和元年10月分から12月分の公表裁決事例6件中4件が、重加算税の取消の事案でした。そのうちの一つをご紹介します。
(令和元年10月4日裁決)
A社(審査請求人)が損金に算入した外注費のうち、下請業者への工事発注業務等を担当していたA社の従業員Bが親族名義の口座に振込ませた金員について、原処分庁が、架空外注費であり、Bによる行為は納税者による隠ぺい又は仮装に該当するとして、法人税等の重加算税の賦課決定処分を行ったのに対し、A社が、Bによるそれらの行為は納税者による隠ぺい又は仮装に該当しないことなどを理由として、取消を求めた事案です。
審判所は、納税者以外の者が隠ぺい又は仮装を行った場合であっても、納税者本人の行為と同視することができる場合には、重加算税を課すことができるとし、①従業員の地位・権限、②従業員の行為態様、③従業員に対する管理・監督の程度等を総合考慮して判断するとしました。
そして、Bは、経営に参画することや経理業務に関与することのない一使用人であったこと、A社の業務の一環としてではなく、Bの私的費用に充てるための金員をA社から詐取するために独断で行ったものであること、A社では一定の管理体制が整えられていたものの、詐取行為を防止するという点では管理・監督が十分であったとは認められないとしました。そのうえで、Bは、職制上の重要な地位に地位に従事せず、限られた権限のみを有する一使用が独断でA社の金員を詐取したという事情からすると、管理監督が十分ではなく、詐取行為を発覚できなかったことをもって、請求人の行為と同視することは相当ではないと判断し、重加算税の賦課決定処分は取り消されました。
以上
(執筆:平松亜矢子)