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【判例紹介】国賠の除籍期間の起算点を巡る最新判例について

最高裁令和2年3月24日判決

 最高裁令和2年3月24日判決は、家屋(以下「本件家屋」という。)を所有し、その固定資産税及び都市計画税(以下「固定資産税等」という。)を納付してきた納税者が、本件家屋が建築された昭和58年に行われた本件家屋の評価等に誤りがあったことから、その後の各年度において過大な固定資産税等が課された等主張し、地方公共団体に対し、国家賠償法1条1項に基づき、固定資産税等の過納金及び弁護士費用相当額等の損害賠償を求めた案件です。この案件では、同損害賠償につき20年の除籍期間(国賠法4条、改正前民法724条後段)が経過しているかどうか、具体的には、その起算点である「不法行為の時」がいつかについて争われました。

 この点、原審(東京高判平成29年12月5日)では、本件家屋の建築当初に算出された新築部分の再建築費評点数は過大であると認められ、昭和58年時の評価行為及び価格決定には国家賠償法1条1項の適用上違法があり、かつ、これについて過失が認められものの、除斥期間の起算点である「不法行為の時」は、昭和58年時の建築当初の評価行為及び価格決定時である以上、本件各年度における固定資産税等の過納金相当額等に係る損害賠償請求権は除斥期間の経過により消滅した旨判示しました。

 それに対し、本件最高裁判決では、除斥期間の起算点である「不法行為の時」とは、次のとおり、「納税通知書の交付がされた時点」とし、損害賠償請求権は年度ごとに発生する旨判示しました。

 「家屋の評価に関して誤りが生ずると、前記2(1)の課税の仕組みの下では、当該誤りがその年度における価格決定や賦課決定だけでなく翌基準年度における評価等にも影響を及ぼし、将来における過大な固定資産税等の賦課という結果を招くおそれが生ずるということはできるものの、その後の手続において課税庁の判断等により当該誤りが修正されるなどすれば、過大な固定資産税等が課されることはなく、所有者に損害は発生しないこととなる。また、当該誤りが生じた後に所有者に変更があれば、過大な固定資産税等を課されて損害を受ける者も変わることとなる。このように、当該誤りが生じた時点では、これを原因として実際に過大な固定資産税等が課されることとなるか否か、過大な固定資産税等を課されて損害を受ける者が誰であるかなどは、なお不確定であるといわざるを得ない。そして、当該誤りが修正されるなどすることなく手続が進められ、これに基づいてある年度の固定資産税等につき賦課決定及び納税通知書の交付がされて初めて、これを受けた者が当該賦課決定の定める税額につき納税義務を負うことが確定することとなる。そうすると、固定資産税等の賦課に関し、その税額が過大であることによる国家賠償責任が問われる場合において、これに係る違法行為及び損害は、所有者に具体的な納税義務を生じさせる賦課決定等を単位として、すなわち年度ごとにみるべきであり、家屋の評価に関する同一の誤りを原因として複数年度の固定資産税等が過大に課された場合であっても、これに係る損害賠償請求権は、年度ごとに発生するというべきである。そして、ある年度の固定資産税等の過納金に係る損害賠償請求権との関係では、被害者である所有者に対して当該年度の具体的な納税義務を生じさせる賦課決定の効力が及んだ時点、具体的には納税通知書の交付がされた時点をもって、除斥期間の起算点である「不法行為の時」とみることが相当である。」

分析

 租税債権の確定方法に関しては、賦課課税方式と申告納税方式があり、賦課課税方式とは納付すべき税額を課税する者(課税権者)が確定する方法を、申告納税方式とは納税者の申告によって納付すべき税額が確定する方法をいいます。

 固定資産税等では前者の賦課課税方式が採用されており、いずれの方式が採用されているかにより論理的に本件の結論が導かれるとはいえないものの、原審では、一連の租税債権確定プロセスの中で、評価行為及び価格決定という過失の原因行為のみを捉えたのに対し、本件最高裁判決では、過失を構成する範囲を広く捉え、所有者に具体的な納税義務を生じさせることとなる納税通知書の交付がなされた時点を重視しており、賦課課税方式と親和性のある妥当な判決であると評価できます。

以 上

(執筆: 米倉 裕樹)