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【事例紹介】相続税と重加算税(国税不服審判所令和3年2月5日裁決参照)

質問

 被相続人の相続人は、妻と子で、税理士を通じて相続税の申告をしました。後に、税務署の調査を受け、契約者を被相続人、受取人を妻とする農協の生命共済契約に基づく生命共済金が申告から漏れていたことが判明したため、修正申告をしました。これに対し、税務署が、共済金の申告漏れは、重加算税(ペナルティ)の課税要件を満たすとし、重加算税を課すとともに、妻の配偶者の税額軽減措置の適用はなくなるとして、更正処分(課税)がなされました。妻と子は、税理士から保険の資料を提出するように言われ、○○生命の保険契約の資料は提出したものの、農協の生命共済契約の資料を提出しそびれていたのですが、重加算税などのペナルティを争えないのでしょうか。

 

回答

 争える可能性があります。専門家へご相談をされたほうがよいと思われます。

 

解説

 相続税は、相続財産に課税されるだけではなく、民法上は相続財産には当たらないものについても、みなし相続財産として課税される場合があります。被相続人の死亡により受取人として指定されていた妻が受け取った生命共済金は、民法上は固有財産であって相続財産には該当しませんが、相続税法上は、みなし相続財産として相続税の課税財産となるものです(相続税法3条など)。

 みなし相続財産に該当するかについては、一般の方からはわかりにくいところがあるのと、相続税申告に必要な資料を税理士に提出する際に一部の財産に関する資料が漏れてしまうなどということもありえます。申告に漏れがある場合、税務調査の指摘を受けて、修正申告を行うこととなり、過少申告加算税(更正を予知してなされた修正申告の場合:10%から15%)を課せられることがあります。仮に、申告の漏れについて隠蔽仮装があったとされると、過少申告加算税の代わりに重加算税(35%)が課されるとともに、隠蔽仮装があったとされる財産の課税価格については、配偶者の税額軽減(1億6000万円か配偶者の法定相続分相当額のいずれか多い額まで配偶者に相続税はかからない)を受けられなくなってしまいます(相続税法19条の2)。

 重加算税を課すための隠蔽仮装があったといえるためは、過少申告の行為そのものだけではなく、それとは別に隠蔽仮装と評価すべき行為が存在することが必要とされ、当初から過少に申告することを意図し、その意図を外部からも伺いうる特段の行動をした上、その意図に基づく過少申告をしたような場合であることが必要とされています。

 税務調査を受けた際に、税務署担当職員による調査報告書が作成されることがありますが、自らの事実認識と異なる内容が記載されていないかよく確認し、はっきりと覚えていないことはそのような訂正をしてもらうことを含め、自らが述べた内容のとおりでなければ、署名押印をすべきではないことに注意が必要です。

 上記ケースにおいては、税理士が相続税の資料提出時や当初申告書の作成時に具体的にどのように確認したか明らかではなく、相続人が相続税申告書に生命共済金の記載がないことを認識していたかも不明で、相続人が税理士に対して殊更生命共済金の存在を秘匿したとまでは認められないとして、重加算税の要件を満たさず、配偶者税額控除も受けられる可能性があります。重加算税の課税については、国税不服審判所の公表裁決事例においても、比較的取り消された事例が多い分野ですので、重加算税の要件を満たしているのか、疑問を持たれた方は、専門家への相談、特に、担当税理士ではない専門家のセカンドオピニオンを求めるなどされることをお勧めします。

執筆: 平松亜矢子