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中小企業・ベンチャーが税務コンプライアンス体制を組んでいなかったらどうなるか?

はじめに

 

中小企業やベンチャー企業にとって税務とはどのように位置づけられるでしょうか?スタートアップなど、初めから収入が少なかったり、直ちに発生しなかったりするので、納税できる体制など二の次という会社も少なくないかもしれません。

 

しかし、スタートアップでも、ベンチャー企業でも、経理や税務処理ができる体制を整えることは不可欠です。売上が上がるベンチャー企業であれば尚更です。税法上損金として処理できるように役員報酬を組む必要がありますし、消費税の課税事業者となるほうがいいのか検討しなければなりません。従業員を雇えば源泉所得税の処理も発生します。役員や従業員にインセンティブとしてストックオプションを発行する場合は、税制適格であることも考慮する方がよいでしょう。

 

このような税法上の処理をないがしろにしては、法定帳簿がないとして売上等を推計したうえで課税され思わぬ痛手を被ったり、みすみす税制上のメリットを逃したりしてしまうことになりかねません。

 

一例として、設立以来申告していなかった、ある飲食業について売上等が推計された事例について検討してみたいと思います。

 

名古屋高裁平成18年1月30日判決・税資256号

 

本件は、納税者である原告が経営する飲食店に売上伝票の廃棄等があったため、課税庁から法定帳簿の備付け、記録又は保存がなかったことを理由として、売上伝票の破棄等による売上除外金額を推計する方法で、法人税や消費税の更正及び重加算税の賦課決定処分などの課税処分を受けたものです。

 

裁判所は、推計課税を、実体上実額課税とは別個の所得算定方法であり、真実の所得を事実上の推定によって認定するものではないから、推計の結果は真実の所得と必ずしも一致する必要はないとして、推計課税という手法自体の合理性を認め、一定程度売上伝票の破棄等があったことを認めました。推計課税は、実際の所得に最も近似した数値を算出し得る合理的なものでなければなりませんが、裁判所は、具体的、①推計の基礎事実が正確に把握されていること、②様々な推計方法のうち、具体的な事案に応じて最適なものが選択されていること、③採用された具体的な推計方法自体ができるだけ真実の所得に近似した数値が算出されうるような客観性を有していること、が必要と判断しており、妥当なものと考えられます。

裁判所は、結論においては、売上除外に係る売上伝票破棄枚数という事実問題の認定をやり直して、処分を一部取り消しています。これは、事実認定の問題として、推計の基礎事実の把握に一部誤りがあったとして原告納税者の主張を容れたものでした。

 

まとめ

 

この裁判例のように、法定帳簿といえないような資料しか作っていなかったり、勝手に伝票を廃棄したり、またその記録を取っていなかったりすると、たとえ真っ当に事業を行っていて、正当な理由があったとしても、要らぬ目を向けられる場合があります。また、悪質な場合、不正に課税を逃れたとして重加算税を含めて多大な課税を被り、事業に大きなダメージを与えることになってしまいます。

 

中小企業やベンチャー企業であっても専門家の力を借りて、早い段階から経理や税務処理のできる体制を整え、仮に課税当局から税務調査において疑いの目を向けられそうな処理がある場合は、専門家に相談するべきでしょう。  

以上

(執筆: 永井秀人)